波紋

「波紋」鉛筆デッサン(2017年5月)

色白でショートヘアが似合うこのモデルは、どこか控えめで抑制のきいた空気感を醸している。薄く張った氷が割れるような声で話す様子から、知的で内省的な思慮をもった人ではないかと感じさせられる。立ち姿にもそれは表れ、何か思念の淵に迷い込んだような眼をして姿勢がブレない。その姿をとても神秘的だと感じながら描きすすめていたら、彼女の表情がにわかに曇り、何かに視線を向けて警鐘を鳴らしている。
「携帯電話を片付けてください。」
見ればホワイトボードの縁に携帯電話が立てかけてあり、参加者の一人が慌てて片付けていた。彼女は、携帯電話のカメラ機能に警戒したのである。その一瞬の出来事は、しんとした水面に落ちた石が波紋を描くように彼女の中に広がり、それを描いていた僕の中にも伝わって、強い衝撃を与えた。僕はすでに描き終えていた頭部を消して描き直すことにした。何度も何度も消して直してを繰り返し、2時間かけてその一瞬の表情を描いた。

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