ワニの話①

Street of crocodiles(2017/パネル、紙、セメント、アクリル、色鉛筆など)

昨年10月、僕は、勤務校の修学旅行に同行し、大阪のEXIPO CITYにあるNIFREL(ニフレル)という水族館に行った。僕の勤務校は小規模校で職員数も少ないため、ここ数年というもの、毎年修学旅行に同行している。ニフレルには、2回目の訪問だったが、この水族館は、何から何まで本当によく考えられていて、何度訪れても、素晴らしい水族館だとつくづく感心してしまう。ニフレルには、いろんな美しい魚や珍しい生物がたくさんいるが、そんな中で僕はいつも、クラゲに魅了されてしまう。引率の一行が先へ行ってしまうので、その場に留まることができなくて残念だったが、あれは本当に神秘的で、息をのむほど美しい。月見ちゃん(※1)がクラゲの絵ばかり描いてしまうのも無理はない。そして、できるならしばらくそこにいたかった。・・・でも、この話は、表題にもあるように、クラゲの話ではなくて、ワニの話だ。だから、クラゲの話はまたの機会にするとして話を先に進めよう。

さて、ワニの話。どこから話そうか・・・。ニフレルにいるワニは、「イリエワニ」というらしい。イリエワニは、アジアからオーストラリア北部周辺にかけての広い範囲に分布し、オスの平均は5m、体重450kgにも及び、爬虫類の中では最大級の一種である・・・と、ウィキペディアさんは語る。

水族館の導線に沿って進んでいくと、後半にさしかかり、広くて明るい開放的な空間に出る。ワニは、そんなメインステージのような空間の一角で大きな水槽を構え来訪者を待っているのだが、彼のポジションは少なくとも主役と言い難い。なぜなら、このステージには、世にも珍しい白色個体であるホワイトタイガーがいて、会場の注目を独占しているからだ。

僕たちが訪れた時、ホワイトタイガーはちょうど、おやつの時間で、ワイヤーで吊られたプラスチック製のブイにくくりつけられた鶏肉を、なんとかして食べようと奮闘していた。会場には、そんな勇猛で美しいタイガー君の姿を一目見んとする者たち・・・いや、スマホ片手にインスタ映えを狙う者たちと言うべきか(笑)・・・で溢れていた。僕たちの一行も、先に卒業アルバムというものが控えている手前、この美味しすぎるフォトジェニックなシーンを逃すわけにはいかず、バシバシ写真を撮っていた。しかし、僕が介助していた車椅子の生徒は、人混みが苦手で、こういう状況では不安定になりやすく、この時もしばらくして不調を訴え出したので、結局僕たちは、写真だけ撮って、少し離れた隣の水槽で待っていることにした。

離れてからもあちらの様子が気になり、遠巻きからつい視線を向けてしまう。時折、「あ~!」とか「きゃー!」とか歓声が聞こえてくる。ここからではタイガー君の姿はまったく見えないが、会場の空気から察するに、彼がおやつにありつけるには、もうしばらくかかるようだ。一行の仲間たちは、すごく熱中して見ていたから、タイガー君がおやつにありつけるまでは、納得しても出てこないだろう。

待っている間、することがないので僕たちは、仕方なく隣の水槽の生き物を見ていることにした。・・・で、その水槽にいたのが、イリエワニだったというわけだ。これで読者諸君は、彼がどれだけ日の当たらない場所にいたかお分かりだろう。実際、彼は水深1mほどの薄暗い水槽の底に身をひそめ、身動きひとつしない。その愛想のない態度は、まるで観客の視線や評価など、全く眼中にないように見えた。

・・・ははは (-ω-)/ こいつ、オレに似てる!(笑)同類じゃん(T_T)

別に自嘲するつもりはないが、その時、わりと素直にそう思えたので、これはじっくり見て行って損はないなと思い、観察開始・・・。

 

硬く細かなとげに覆われた岩のような肌は、浮き出た緑青に似た鈍い錆び色をしている。にもかかわらず、腹側の皮膚は、まるで塗り忘れたままのようにやけに白く、ぬめぬめといやらしく光っている。胴体に規則正しく配列された鋭い突起は、尾に向かって進んでいくうちに、徐々に形状を変えながら間隔を詰め、やがてそれは、鋭利な刃へと姿を変える。その姿は凶器で覆われた中世の甲冑のようであり、見る者に暗い重圧をのしかける。先鋭に突き出した顎には薄く波打つ白い歯列が上へ下へと不規則に並んでいる。それは歯というよりはひとつひとつが時間をかけて研いだ矢じりのようにも見え、食べるために生えているというよりはむしろ、殺すために生えているようだ。今生がもし贖罪のためにあるとしたら、この生き物の業は、ぬぐい切れないほど暗くて深い。

(なんて腐った眼をしているんだ・・・)と僕は思った。

皮膚に擬態し見分けがつかなくなった影のような眼の奥に、虚空をさまよう闇が見える。もしもこの世に、一点の曇りもない殺意があるとしたら、意外とそれは、このワニのようにしんと静まりかえったものなのかもしれない・・・。

 

・・・前言撤回っ!(おー…寒気ぼろ出てきた。)こいつが地味で人気がないところは確かに自分と似ているが、本来、こいつは喰う側で、オレは喰われる側なのだ!僕たちは殺戮の元凶ともいうべきこいつから、いくらか厚みのあるガラスの薄皮一枚を隔てて守られている。(水族館って、こわい・・・)と僕は思った。(つづく)

(※1)・・・倉下 月海(くらした つきみ)。東村アキコの漫画「海月姫」の主人公でクラゲおたくの腐女子。

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