月の使者

海に行き、浜辺を歩いていると、様々な物が落ちている。貝殻、流木、小石、骨、海藻・・・それにゴミだって落ちている。船や漁で使った資材の一部、錆びた金属、ガラス片・・・。それらは皆、海から浜辺に流れ着くまでに波に洗われ、丸みを帯びて美しい顔に変貌している。その風合いに癒されるのは、自然の作用によって研磨された者たちが、その物の本来の性質に還りつこうとしているからではないだろうか。海に行くと僕は、いつもそんな美しい漂流物たちを一つ、また一つと拾ってしまう。そして気が付けば僕の家には様々な漂着物たちがコレクションされている。特に僕は、丸いすべすべした石が好きだ。それらが庭や窓辺に何となく置いてあるだけで、僕は生活の中に潤いを感じることができる。

海の石にもいろいろあるが、観察すると、砂の積層がそのまま凝固したようなストライプがあるもの、貝殻が柔らかい石に巣穴を掘った後が残っているものなどあって、それらがどのような時の経過を辿って漂着したかを想像することは、とても楽しい。

コレクションの中でもお気に入りの、貝殻の巣穴を残した石たちは、僕にとって、どこか月のクレーターを想起させてやまない。

今、僕は「月の使者」という主題のもとに美しき漂着物たちの制作を始めたところだ。自然の作用で変貌を遂げた彼らは、僕の感覚を日常から非日常へと誘う「使者」なのだ。

自作した30号のパネルに水張りしたKMKケントに鉛筆だけで描く。技法的に素描であることは言うまでもないが、しかし、描く上では、完成度の高いタブロー(平面作品)を描くような意識で描き切るつもりだ。このモチーフの設定には、僕の自由な感性が生み出した、暗喩や見立てによる寓話性がある。しかしそのことについては、またの機会に・・・。

今夜も僕は、お月さまのような白くて可愛い石たちに「おやすみ」と言って眠ることだろう。

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です