After days

2015 After days

今、僕の勤める職場は、自宅から15分ほど歩いたところにある特別支援学校なのだが、ちょうどその場所は、三つ葉のクローバーのような大きな外周道路に囲まれた団地街の中にあって、見回せばそこかしこに近代建築の遺物のような、中途半端に古めかしい団地が立ち並んでいる。そのむかし、黒川紀章という偉い建築家が設計したこの街は、「菱野団地」という名称で知られている。当時としては画期的なニュータウンだったそうで、建設を開始したのが1969年(昭和44年)であるというから、なにか感慨深い思いになってしまう。なぜなら、この街の建設が始まった1969年に僕は生まれたのだから、この街の変容は、そのまま僕の生きる歳月を象徴している気分にさせるのだ。考えてみれば、自分の年齢と同じ街の中にいて、その変容していく姿を見ることは、ちょっと不思議な気がする。喩えとして伝わるかどうかわからないが、時間に対する身体感覚のオモテとウラが入れ替わり、表層的な日常が、老いていく自分の体内に包まれているかのような感覚・・・。

学校の勤務時間には、毎日45分間の休憩時間が保障されている。時々、僕はその時間を使って、気分転換や健康増進のために団地の外周道路に沿って歩くようにしている。この絵の風景は、そんなルーティーンの中で繰り返し見続けた風景のひとつである。この家屋は廃墟で、窓から見える屋内は、破れかけたカーテンが少し見えるくらいだ。庭は荒れているが、雑草が生い茂ってくると定期的に誰かが刈り取っているようで、廃墟のわりにこざっぱりとしている。そして何より僕を魅了したのは、錆びて風格を露わにしたツートーンカラーのセダン。サイドミラーがフロントにあるあたりが、昭和の懐かしさを漂わせている。

(ああ、そういえば、こんな車、走ってたよな…。)

(この家の家族は、どんな人たちだったのだろう?)

(この車が新車でこの家に来た日は、家族みんなが幸せだったのではないか。)

この家の前を通るたびに様々な思いが去来する。絵の主題は、探さずともすでにそこにあったのだ。休憩時間の午後3時30分から4時15分までのお決まりのウォーキングコース。同じ45分でも、毎日歩き続けていると、季節によって日照時間が大きく異なることに気づく。凍てつくような寒い冬のある日、澄んだ空気の中に差し込んだ鋭い夕日がセダンを美しく洗い出した。その一瞬に衝撃を覚えた僕は、この場所を描くことに決めたのだ。

2014年、両目の白内障の手術をうけた僕は、医療保険やらなんやらで、治療にかかった額の倍のお金をいただいた。そこで迷わず、そのお金を握りしめて画材屋へ行き、シュミンケの超高級水彩絵の具を買ったのだ。この絵は、スケッチで、シュミンケの絵の具を使ってざっくり何枚か描き、最終的にアトリエでタブローにしようと思っていた。しかし凍るように寒い中、この一枚を描き上げてみると、翌日、風邪をこじらせて寝込んでしまい、しばらく間をあけていたら、この家は取り壊され、さら地になってしまっていた。

・・・現実って奴は、いつもちょっとだけドライな味つけになってるようだ(笑)

 

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