“70”にまつわる話

1988 人物デッサン

ブログへの投稿も今回で70回目となる。アニバーサリーの区切りなら100回が妥当と思うが、“70”という数字にまつわるエピソードがあるので紹介したい。しかし、(前もって言うが)この話はあまり愉快な話ではない。それでも読んで下さる方には、感謝します。どうぞお読みください。

紹介したデッサンは高校3年生の冬に予備校の東京芸大受験コースの模擬試験で描いた人物デッサンである。木炭紙に木炭と鉛筆を併用して描かれているが、この手法は時間短縮の対策として当時、油画専攻では広く一般的だった。

さて、この人物デッサン…。自分の作品なので、ひいき目にみても決して高評価はつけられないが、できるだけ客観的に自己評価してみよう。

良いところとしては、人物の正確なプロポーション、量感、着衣の質感など(完全とは言えないが)まずまず描かれている。髪の黒さに対して、肌、セーター、ジーンズ、シューズの色調の微妙な違いも描き分けられているし、張り出した左ひざから頭部までの奥行は、適切に描写されている。

一方、改善が必要な点としては、構図上、画面に対し人物が左側に寄り過ぎ、奥の右足が切れてしまっているため、奥の右足と手前の左足の距離感がうまく捉えられていないこと、パイプ椅子のパースペクティブにわずかな狂いがあること、画面全体の中でポイントとなる部分がどこにあるのか明確でないこと…など、未熟なところはいくらでも見つけ出せる。

 

本作をよく見ると右上に小さく数字が書いてある。

“70”と書いて“ななじゅう”と読む。(笑)そう。この作品は70点だったのである。

模試は受験者がとても多いので、講評会は全員を対象に行われず、第1選での「粗取り」で選ばれた作品だけがその対象となる。「粗取り」で正面に集められた作品は、講師陣の選考によってランク分けされたグループに選別され、その中でさらに順位がつけられていく。そして殺伐とした空気の中、粛々と講評が行われる・・・

この作品は、「粗取り」はかろうじてパスしたが、残念ながらBグループの「中より下」だった。

70点という評価の大意としては、「平均的な技術力は評価するが、創意工夫に欠け、合格圏に達していない」という解釈でよいと思う。

緊迫した模試の中で、自分はベストを尽くし、よく描けた気がしたのだが、前に並べてみると白抜きのバックに暗い色調で描いた自分のデッサンは、空間的な広がりに欠け、マッチ棒のように小さく見えた。他の上位の作品は、ハーフトーンの基調を明るく設定し、背景の隅々に意識が及んでおり、画面構成や描写に魅力に富んだ創意工夫が感じられた。そんな中、自分の作品が見劣りすることは一目瞭然だったし、正直、凹んでしまったのも無理もない話だ。

 

しかし今にして思えば、こういう苦い思い出からも、学ぶべきことは沢山あった。予備校では、子どものころから絵が上手い人たちが、さらに志をもって精進しているのだから厳しい競争が生じるのは仕方ないことだ。その中で考えなければならないことは、この70点という評価は、あくまで相対評価であって、絶対評価ではないことである。競争原理の中では、自分の中でベストとされることが、必ずしもそのように評価されないことだってある。他人が自分につける評価は真摯に受け止める必要があるが、だからといってそれが全てではないことを学んだのだ。低い評価であってもその中で、へこたれることなく有用なものと無用なものを整理し、次につなげる課題を自分で見つけなければならない。受験期には、それまで築き上げたプライドは木っ端微塵に打ち砕かれてしまったが、代わりに他人の評価に躍らされることのない、冷静な自己評価の姿勢を身につけることができたように思う。

【参考】

習作期:http://studio-bosque.com/gallery%e2%85%a0/study-period/

 

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