植栽工の夢

1990 植栽工の夢 油彩

この作品は芸大2年生の頃描いた油彩画である。1年生の課題は、モチーフを見て描くことが中心だったが、2年生になると自分なりの絵画表現を自由に模索することができるようになった。一応、課題は出ていたと思うが、教授は、限られた日しかアトリエに来ることはないし、もし運よく描きかけの絵を見てもらえるような場合も、開口一番に「いいね。」と言ってからコメントをもらえる。しかし浪人時代の予備校で毎日、酷評…もとい叱咤激励、を受けた身としては、褒めていただいたことにもリアリティが感じられなくて、人から受ける評価をあてに描くことの無意味さに気づき始めた頃でもあった。僕は学内の図書館に通い、書庫の画集を片っ端から鑑賞して過ごした。この頃は、モダンアートに関心が強く、後期印象派のセザンヌやゴッホの画風がピカソやマチスを経て表現主義や抽象絵画へと展開していく系譜に心惹かれていた。写実的に描くことから離れ、冒険し、自由で個性的な表現を求めていたように思う。

ドイツの生物学者であるエルンスト・ヘッケル(1834~1919)は、「個体発生は系統発生を繰り返す」という有名な言葉を残している。たとえばヒトの胎児期の発達過程が生物全体の進化の過程と類似しているように、個体発生の中でも生物史の系統性が繰り返されるという考え方であるが、ヘッケルの示唆するところは、生物学にとどまらず、分野の異なる芸術においても同様のことが言えるのではないだろうか。

中世封建社会から市民革命を経て、自由な創作が個性的に展開したモダンアートまでの系譜は、抑圧からの解放と新たな価値の創造の過程であった。この系統性は、暗黒の浪人時代から受験を経て、晴れて芸大生となって自由な創作スタイルを求める自分の系統性と相似形である。(笑)人は抑圧からの解放を求めるが、自由になったらなったで、何かを求めて思い悩む生き物なのだ。

この絵を描いた頃、仲間に紹介を受けて造園屋でアルバイトを始めた。画材代稼ぎで始めたアルバイトだったが、何をするにも新鮮な驚きがあって働くことが楽しかった。造園屋の職人さんは皆、日焼けして苦虫を噛み潰したように皺くちゃな顔をしていたが、味のある“いい顔”をしていた。無口で不愛想だが意外と優しいところがあって、言葉少なにいろんなことを教えてくれた。そんな愛すべき職人さんたちに敬意をもってこの絵を描いたのだ。黄色い空やデフォルメした人物像のフォルムは、ドイツ表現主義やキュビズムなどに影響を受けたものだ。また、この頃ユーリ・ノルシュテイン(露1941~)のアニメーションに描かれる、絶妙にヘタウマ調な人物像にも憧れていた。たくさんの憧れを夢にのせて、植栽工を描いたのだ。(下図の作品も、同時期に描いたものである。)

【参考】

平面作品:http://studio-bosque.com/gallery%e2%85%a1/%ef%bc%92d-works/

1990 靴に宿る者 油彩

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