芸大を卒業する、君たちへ。①

1990~1991 線路を歩く男

昨日は素描展が無事終了し、打ち上げの飲み会だった。鉄板焼きを囲んでお酒を飲みながら楽しく語り合ったのは、油画科4年の二人だった。話が進むうち、スマホ片手に二人の作品を見せてもらう…それは、本当にすばらしい作品だった。粗削りだが、へんに摺りこまれた嘘くささがなく、冒険があり、みずみずしい感性に溢れていた。絵に向き合うスタンスや方向性がもうこの若さにして形を見せつつある。彼女らは、まちがいなく豊かな才能をもっている。そして今年度、芸大を卒業するのだ。

 

芸大を卒業する・・・。一言で「卒業」と言っても、芸大は様々な科に分かれていて、「卒業」の節目のあり方が、それぞれ全く別物なのだ。デザイン科であれば、学部の段階で専攻に分かれ、徐々にプロフェッショナルな職業教育を受けていく。彼らにとって卒業は、大学で積みかさねてきた「演習」を、いよいよ社会の中で役立てる「実践」へと移行していく節目となることだろう。デザイン科の学生は学部にいるうちから計画的に社会経験を積み重ね、社会人としての生き方を学んでいく。大学と社会は滑らかで直線的な延長上にあり、彼らは卒業すると、社会や人の暮らしへの貢献に相応した対価を得るようになる。

 

しかし、油画、彫刻などのファインアート系は、それとはまったく異なる節目を迎える。社会に放り出された途端に、これまで大学で真摯に学んできたことが、生きる糧を得ることに結びつかない現実に直面するばかりか、それまで潤沢にあった制作のための場所や時間などの必要不可欠な条件が、大きく削り取られてしまうのである。大学で純粋に描いていた日々は遠い夢の出来事のようになり、熱く語り合った友は、地方へ散ってしまう。大学時代、視野狭く制作に没頭していた者ほど、大学と卒業後の社会生活の落差に愕然とすることになるのだ。それはなぜか。

 

ファインアートを志す者は、自覚の有無に関わらず魂の根底に、どこか社会への反骨精神を抱えている者が多く、アートの力による既存の社会システムからの自由を求めて芸大にやってくるものがほとんどなのだ。そういった意味で芸大は、社会からほどよく隔離された自然豊かな場所にあり、まさに楽園のような場所である。芸大生は70年代のヒッピーの文化に似たユルく平和なコロニーを形成し、「就職なんてするものか。」「絵で食べていくんだ」「就職したらダメになる。」なんて、僕も普通に思っていた一人だが、それが芸大生らしい“当たり前”なのだ。そんな空気にどっぷり浸かるうち、身についた反社会的体質が美徳にすら思えてくる。しかし世の中の圧倒的多数はそれを良しとせず、芸大生は卒業と同時に社会的マイノリティとなることを避けられない。そして社会と自分とのギャップの中で生じる混乱の中、芸大生は生き残りをかけたサバイバルゲームに投入され、ふるい落としにかけられる。

 

芸大を卒業する君たちへ・・・。もし僕がこれから数回にわたって書くブログに共感をもって読んでくれるなら―(僕は芸大を出て、ふるい落しにかけられた一人であり、成功者とはとても言い難いけれど)―少なくとも君たちの抱える不安に寄り添い、絵を描き続けるために何が必要かを明らかにすることはできる。君たちを成功に導くノウハウを教えることはできないかもしれないが、僕がした失敗を回避するための助言はできるだろう。もし、これを読んでくれた君たちの才能が、卒業後の社会生活の中で消えてしまうことなく、戦術的に生きるしなやかさと自分の感性を守りぬく堅牢さを獲得するに至るならば、僕にとってこんな嬉しいことはない。

 

【記述構成】

芸大を卒業する、君たちへ。① ~芸大を卒業する、君たちへ~

芸大を卒業する、君たちへ。② ~卒業の不安と卒業後に求められる力~

芸大を卒業する、君たちへ。③ ~今、何をすべきか。卒業後への準備~

芸大を卒業する、君たちへ。④ ~アーチストの生き方、3つのタイプ~

芸大を卒業する、君たちへ。⑤ ~アーチストとギャラリー~

芸大を卒業する、君たちへ。⑥ ~アートの社会的構造~

 

ざっとこんな感じで、2~3日おきくらいに更新していくから、もし良かったら読んでくれ。・・・でもつまらなかったら、無理して読まなくていいよ。(笑)

 

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芸大を卒業する、君たちへ。①” に対して1件のコメントがあります。

  1. 荒川佳子 より:

    私は芸大を出ていませんが 遠回りをしながら 絵を描く 道を選びながら今まで生きてきました。 美術大学を 卒業しても 制作を続けている人は少ないと聞きます。 制作すると言うことだけに 四年間費やしたものが全く関係ない 仕事に従事するというのは 辛いだろうなと 思っていました。 私も社会となかなか折り合いが合わないことが度々ありました。 森さんのブログ 興味深く 読ませていただきます。

    1. Masaki Mori より:

      いつもご講読ありがとうございます。
      最近、嬉しいことに制作活動を通じた人のつながりが自然にできてきました。
      若い芸大生たちとの交流の中で、どうしても伝えておきたくて書くにいたりました。(余計なお世話かもしれないと、知りつつ)
      ある意味、自分の恥部をさらすようなところがあり、誠に恥ずかしい限りですが、よろしければ続けてお読みください。

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