芸大を卒業する、君たちへ。(最終話)

1990~91 船

振り返れば、もう随分昔の話となってしまったが、芸大修了と同時に、名古屋市に引っ越した僕は、2LDKの安アパートの一室をアトリエに制作活動を始めた。アルバイトで生計を立て、作品を作って個展を開催したり公募展に出品したりしていけば、そのうち誰かが認めてくれるだろう、という恐ろしく楽観的な希望的観測をもっていた。しかし、その「誰か」って誰だろう?そんな親切で物好きな「あしながおじさん」のような人がいるのだろうか?そして認められることが食べていくことにつながるのだろうか?

 

言うまでもなく、世の中はそんなに都合よくできておらず、その数年後に僕の無計画な活動は破綻をきたすこととなった。思うに日本の全人口のうち美術に関心のある者はほんの数パーセント。しかも美術の分野はいろいろあるし、その中でファインアートに関心をもち、作品を買い求める者はさらに稀少な存在だろう。単純に考えてみてもこの業界は、需要と供給のバランスがとれていない。供給する者は、需要のあまりの少なさに自然淘汰されてしまうのだ。森鴎外が自身の著作の中でぼやいているように、わが国は芸術が育ちにくい土壌なのかものしれない。

しかし、考えてみると、「創作を続けていくこと」と、「創作を通して食べていくこと」は、ファインアートの性質上、必ずしも両立しないものと捉えた方が本筋ではないだろうか。

歴史的に見ても、ファインアートの“fine”が示す「純粋性」は、社会全体に通じる目的的営為からの反発と離脱によって、時代に潜在する新しい感動を呼び覚ましてきた。アーチストがもし、一定の収益を得る目的で市場のニーズに隷属するならば、そこにはもはや商品的価値を生み出すことはあっても、アート本来の意義を見出すことはできないだろう。それらは表層的な美しさを主張する一方、本質的な生命力の損なわれた形骸にすぎない。そんな痛々しい作品を、これまで僕は一体いくつ見て来ただろうか。

ファインアートは、社会全体に通じる目的的営為の枠組みの外にありながら、人間存在の本質を鋭く捉え、共同体内部に抑圧された本能的衝動を解放しうるものだと思う。ファインアートは、食べていくためには不合理だ。しかしアーチストにとって、それはなければ生きられないものだ。と、するならば、「アーチストの生き方は不合理である」とはじめから腹をくくっていた方が、混乱せずに生きていけるのではないだろうか。

 

最後になってしまったが、芸大を卒業するまでに準備すべきいくつかをここに記し、しめくくりとしよう。かつて僕は、卒業に伴う環境の変化の中、大いに混乱し、創作を続ける上で何を優先すべきか見失っていた。振り返ればあの頃の焦りや不安は、将来的な見通しの持ちにくさから生じたもので、創作を続けていくために必要な条件整備がうまくできていなかったことが起因していたように思う。

 

優先事項:1/生活拠点を決める。

まず、どこに住んで作家活動をしていくか決めよう。作家として活動したい地域、家族、友人、恋人など考慮に入れながら、総合的に判断しよう。もちろん特に判断材料がないならば、芸大周辺にしばらく住み続けることも良いだろう。

 

優先事項:2/制作拠点を見つける。

アトリエを探そう。賃貸アパートの一間をアトリエとすることも良いが、できれば生活拠点と制作拠点は少し離れていた方が望ましい。数名の友達と倉庫をシェアして借りたり、安い中古物件を見つけて購入したりするなど、いろいろ考えて最適な条件を選択しよう。

 

優先事項:3/発表拠点(ギャラリー)との関わりをつくる。

提携型ギャラリーの中で自分の創作の方向性にマッチしたところを見つけ、接近し、関わりをつくるようにしよう。ギャラリーの選び方については、blog「芸大を卒業する、君たちへ。⑥ ~⑦」を参照してほしい。

 

優先事項:4/最適なアルバイト先を見つける。

フリーランスな作家活動を続けるならば、就職は先送りして、アルバイト生活を中心にするのも良いだろう。卒業後、車を維持するならば、名古屋周辺でも最低月15万円は必要と思われる。高校の非常勤講師や予備校の講師など、割の良いアルバイトが見つかればラッキーだが、そうでなければ複数のアルバイトでつないでいくことも考えよう。

 

優先事項:5/活動を開始する。

1.ギャラリーでの個展またはグループ展を行う。

2.公募展に積極的に出展する。

  • ただしこれは、「マグロの一本釣り」に似て、冠賞を授賞すると大きいが、外れるとリスクも大きい。ギャラリーでの発表に拠点を置きながら周期的に挑戦するのがベター。

3.アートイベントに参加し人脈を広げる。

  • 友人とのつながりからアートイベントの話が舞い込んできたら、一度は参加してみよう。ホワイトキューブ型展示空間に比べ、オルタナティブ・スペース(代替空間)から創作を立ち上げるのは意外と難しいが、創作の質を高めていく上で良い機会となるだろう。

 

優先事項:6/情報発信を充実させる。

持込用のポートフォリオ、SNSによる作品紹介、WEBサイト、ブログなど、情報発信を充実させよう。WEBサイトの立ち上げも、最近は比較的容易にできる。ちなみに本サイトである“Studio Bosque”は、ワードプレス(wordpress)で作ったが、パソコン関係が不得意な自分でもわかりやすい教本が出ており、簡単に作ることができたので、一応紹介しておく。(こちらをクリック

 

<おわりに>

以上、長きにわたりこのシリーズを読んで下さった読者の方々、または芸大生の皆さん、ありがとうございました。僕自身は、書きはじめ、痛い思い出がいっぱいでちょっと辛かったが、途中からこれからの自分の創作を広げていくための考察をまとめることにもつながったように思います。自己満足極まりない文章で申し訳なく思う一方で、もし何か参考になることがあれば、嬉しく思います。ありがとうございました。

1990~91 船出

 

 

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