ワニの話②

たしか、今年1月31日に本ブログで「ワニの話①」を書いたが、その後いろいろあって長らく放置、続きを書かないまま今日に至る。何事もやりっぱなしはいけないので、続きを書こうと思う。

興味のある方は、

ワニの話① http://studio-bosque.com/2018/01/31/waninohanashi/ をクリックしてほしい。

【前回のあらすじ】

勤務校の修学旅行に同行した僕は、大阪EXPOシティにあるニフレルという水族館を訪れた。ホワイトタイガーのショーが始まる中、自分の介助する車椅子の生徒がトラを怖がるので少し離れたところで待機することにした。すると近くの水槽の底にはイリエワニが静かにこちらを見ていた。水槽のガラス越しにその姿を見た僕は、その恐ろしい姿に戦慄を覚えたのだった。

 

 

【ここからが続き】

10月16日(火)のこと。昨年度に引き続き、僕は今年もまた修学旅行に同行することになり、ニフレルを訪れた。会場の人気は、相変わらずホワイトタイガーが独占しており、イリエワニは今年もやっぱり地味で人気がなかった。イリエワニは、不愛想をコテで塗り固めたような顔をして、水槽の底にはりついている。イリエワニは、一見目立たないが、ひとたびその姿に観察眼を向けたなら、その佇まいは身の毛もよだつほど恐ろしく、それはあたかも全身に狂気を宿す静かなる殺戮のマシーンのようだった。

水槽の底に身を潜め、微動だにしないイリエワニ。虚空を縦に切り裂いたような瞳から腐った視線をこちらに向けている。しばらくして僕は、ある疑念に囚われ始めた。

爬虫類であるワニは、肺呼吸で生きる生物であり、魚類や両生類のようにエラ呼吸でない以上、息継ぎがなければ生きられないはずだ。にもかかわらず、このワニは水中に沈んだまま、息をする素振りひとつない。果たしてこのワニは生きているのだろうか?もしかしたら精巧にできた造り物ではないのか?と。

5分、10分、15分経過・・・イリエワニは水中に身を沈めたまま身じろぎひとつしない。カメラを構え、息をする瞬間を撮ってやろうと待っているものの、ワニは動かない。そのうち修学旅行の一行が移動をはじめ、もうこれ以上待ちきれなくなって立ち去ろうとした瞬間、背後からどよめきがおこったので振り返った。

 

イリエワニが浮いている!

あれ…?な・なんかかわいい!?

重厚な鎧を身にまとった殺戮マシーンは、まるでUFOキャッチャーで吊り上げられた、ぬいぐるみのようにプラプラと揺れている。丸太のような体躯からぶら下がった手足はことさら短く見え、だらしなく開いた脚が笑いを誘う。

 

(そうか、ワニもやっぱり、呼吸しなければ生きられないんだ。)

(しかもこんな風に、なりふりかまわず息をするんだ。)

(もしこの水面にフタをしてやれば、このワニを瞬殺できてしまうわけだ。)

 

僕は、イリエワニに親近感を覚えずにはいられなかった。これこそ究極のギャップ萌えというものだろう。

 

ニフレルでのこの出来事以降、僕は時々、イリエワニのことを思い出す。

こうしている今も奴は、僕の日常から遠く離れたあの場所で、何分かに一回浮かび上がって息継ぎをしているのだろう。それは、命が続く限りずっと、まるで日本庭園の「ししおどし」のように、有機的な周期性を保もって繰り返されるのだ。

狂気を宿す殺戮マシーンは、水槽のガラス一枚を隔てて僕たちの日常と隣接し、生きるためになりふり構わず呼吸している。

イリエワニがもたらした、恐怖と可笑しみが同居するその奇妙な感覚は、鈍麻していく僕の「野生」にキックを入れながら、どこかやるせない「生の哀しさ」とでもいうべきものを伝えている気がした。そしてそれ以来、そんなイリエワニがよく僕の絵に登場するようになった。

 

ニフレルの売店で、僕は精巧にできたイリエワニのおもちゃを買った。実際のワニは、ここまでイナバウアーしてなかったが、必死さがよく表現できていて、手に取ると思わず笑ってしまう。去年と今年で2個買った。もしまた訪れることがあったら、また同じものを買おうと思う。

 

 

 

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